百日紅
それは 私にとってこの上なく悲しい頃である。
30余年前にもなるが
規(のり)が交通事故で逝った。
一人息子であった。優しい親孝行の子であった。
そして暑い夏の夜のことであった。
私はかけがえのない宝物を失った悲しみに打ちひしがれていた。
そして たった今死んでもいい とさえ思っていた。
彼女もそうであったに違いない。
”おばちゃま~~これ、あんまり綺麗だから買ってきちゃったわ”
といって抱えてきたのがこの百日紅である。
小さな鉢に植えられていたそれは 今はもう立派な庭木に育って我が家の庭を賑わしている。
大きくなったものねぇ~~その筈よ、30年余りも経っているんだもの、
今年もピンクの花は その身を風に任せている。
あの世とやらには この花はあるのだろうか?
あるとしたらあの子はどんな思いでそれを眺めているだろうか?
私にとって忘れられない 夏の花のひとつである。
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